私たちも、当初は耕作放棄地など条件の整わない畑からスタートしました。そのような場所でも早く経営が成り立つようにするために、畑の化学性と物理性、生物性を整えてから栽培を始めます。
たいていの作物は、この方法でよく育ってくれます。ところが秋冬栽培のキャベツやブロッコリー、カリフラワーなどのアブラナ科野菜を育てると、必ずといっていいほどアオムシやヨトウムシ、ハスモンヨトウなどの飛来害虫により、ひどい虫害にあいました。当然、化学農薬不使用なのでモスピランなどの農薬は使えません。物理的な防除として0.8~1㎜の防虫ネットをかけても、ハスモンヨトウはネットの上から卵を産み、気づくとネットの中で繁殖して定植直後のキャベツなどの葉が穴だらけになることもありました。
9月に定植したカリフラワーのスーパーセル苗
苗を強くして対策
これまでの経験では、数年間キャベツなどと緑肥を組み合わせて連作すると、病虫害が減っていく「発病衰退現象」が確認できていたのですが、そこに至るまでには数年かかります。なにか別の方法はないかと検討していたときに、苗を強くする技術、「スーパーセル苗」に出合いました。
スーパーセル苗は、ケールやキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーなどのアブラナ科野菜を、通常の2倍以上の育苗期間をかけ、追肥をしないで水だけで育てたセル苗のことです。いわゆる老化苗にすることで、葉のクチクラ層が3倍ほどの厚さになって虫害に強くなり、胚軸も硬くなるため、病気にも強くなります。定植初期の葉色が薄く、アブラナ科特有の揮発成分も4分の1になることで、ヨトウムシなどの飛来害虫にも見つかりにくい苗になります。
育苗日数で比較
当農園では128穴のセルトレイを使う場合、有機JASで使えるEM育苗用培土に赤玉土か鹿沼土を10%混合し、肥料分を少し薄めてから播種します。200穴のトレイを使う場合は培土の量が少なくなるため、鹿沼土は入れずに播種します。その後、追肥はせず、かん水だけで育てます。育苗期間は通常20~30日ですが、その2~3倍の40~60日とします。ちなみに、育苗期間が長く双葉や本葉が落葉してセルトレイ上に残るとカビの発生原因になるので、できるだけ早く除去します。
スーパーセル苗になると、根がセル内いっぱいに伸びるので、土が締まって給水しにくいことがあります。研究機関などでは、底面給水のシステムを導入しているケースもあるようですが、当農園ではきちんと水を含んだか確認しながら手かん水します。
試験場の研究では、育苗期間が40日の苗より60日のほうが、病虫害などが若干少ないという結果が報告されています。