虫歯の原因は「象牙質の液体移送システム」。口と体はつながっている。

虫歯はどのように進むのか?その原因は人間の体の中で働くシステムと関係がある。

■口と体はつながっている
〝象牙質の液体移送システム〟で口と体はつながっている

 歯からつながる体の病気に「病巣感染」があります。体のどこかに巣(原病巣)があり、これが原因で菌が全身に運ばれることで他の臓器に感染、病気を引き起こすことがあります。その病巣が歯や歯の根っこの部位にできて体の病気につながることを「歯性病巣感染」といいます。
たとえば虫歯は食べかすに細菌がくっついて酸を出し、歯の表面を少しずつ溶かして奥へ奥へと進んでいくのが虫歯だと言われています。もちろん間違いではないのですが、この説だけでは説明できない虫歯があります。歯の表面から見ると黒ずんだり穴が開いている様子もなく、一見すると虫歯のない健康な歯のように見えます。しかし、レントゲン写真で見てみると歯の内側が溶けて神経まで達している。こうした症例は歯医者の現場ではよく見られます。

 では、こうした虫歯はどのように進んだのか? その原因は人間の体の中で働くシステムと関係があります。
 アメリカのラルフ・スタイマン博士が発見した「体を流れている物質は、やがて歯の神経を通り歯の表面に出てくる」ことを実証した論文に、虫歯ができる原因として「象牙質の液体移送システム」が大きく関係していると書かれています(資料2)。
 象牙質の液体移送システムとは、脳下垂体視床下部からの指令が耳下腺を経由して伝わると、液体が歯の神経から象牙細管エナメル小柱間を通って歯の外側へ流れ出る仕組みになっていて、システムが正常に働いていれば虫歯菌は歯の内側に侵入できません。さらに博士の実験では、「体内から口の中へと液体が運ばれていく流れが、内分泌系の機能の低下や偏った食生活、ストレスによって滞ったり逆流する」ことがわかったとあります。
 つまり体内の物質が歯を通って口の中に流れるだけでなく、口の中の無数にいる虫歯の原因となる細菌が、歯の表面を溶かすことなく内側に流れ込み、場合によっては体内に流れ込むこともあるということを意味しています。

■口臭は免疫力の低下が原因!
 口臭の強い人は、内臓の機能が弱っていたり免疫力が低下している可能性があります。というのも口の中は常に外気にさらされ、腸内の約 10倍もの細菌がいます。そのため免疫力が落ちると細菌の数がてきめんに増え、歯垢が付きやすくなったり、歯周病の状態が悪くなるなど、口の中の状態が悪化することで、いつもより口臭が強くなったりします。人は病気になるまで健康についてあまり気にしていませんが、虫歯や歯周病になり歯医者に行くことで体調の不具合、あるいは病気の一歩手前にあることに気づくきっかけになるかもしれません。そのためにも、私たち歯科関係者は全身の病気について常に勉強していかなくてはなりません。
 虫歯や歯周病と体の健康状態について、長年研究を重ねていますが、驚くべきことがわかってきました。

 それは口の中の病気とがんの原因が同じであるということです。がんはこれまで遺伝子の突然変異によって、できると考えられてきましたが、最近では生活習慣病のように、日常生活や健康状態が大きく影響していることがわかってきました。
 私たちは体を動かすエネルギーとしてお米や芋、小麦粉などの炭水化物を食べ、ミトコンドリアと呼ばれる細胞小器官によって酸素を使って炭水化物を分解しますが、この炭水化物が体に必要な量を大きく上まると分解が間に合わなくなってしまいます。そこで、この働きを助けようとして生まれるのが、〝原核細胞〟です。

 この原核細胞は大腸菌と同じような単純な構造をしているので、放射線や紫外線、薬、ストレスなどの影響をとても受けやすいという弱点があります。本来、人間の細胞は簡単には変異しないのですが、この原核細胞は簡単に変異します。こうして生まれたのが、がん細胞です。
炭水化物を食べすぎなければ、原核細胞は生まれませんし、また生まれてしまったとしても、先ほど述べた刺激(放射線、紫外線、薬、ストレスなど)さえなければ、がんに変わることはないのです。 
 その人の健康状態を知る上で、私がもっとも注目しているチェック項目の一つに患者さんの唾液のPH検査があります。PH検査を始めたころは、歯に着色しやすい人とそうでない人の違いはどこにあるのか、特定の食べ物が原因ではないかと思いましたが、それらしいものは見つかりませんでした

■唾液のPH検査からわかること
 そんな折、酸性体質とアルカリ性体質に関するドイツの論文に「酸性体質の人は歯が着色傾向にあり、唾液も酸性で自らの唾液で歯の表面を溶かし、ザラザラにしてしまうことで色素が着色しやすい」とありました。
 そこで着色しやすい患者さんの唾液のPHを調べてみると、確かに着色のある患者さんは酸性体質の人が多く、しかも虫歯ができやすい傾向にありました。さらにクリニックにがん患者さんが紹介で来院されたのですが、歯の着色がかなりあり、唾液PHを測定すると極端に酸性に傾いていることがわかりました。
 その後も、多くのがん患者さんの唾液検査を続けましたが、全員がPH5台という数値だったのは驚きです。実は、うつ病や慢性疲労、糖尿病などの症状のある人のほとんどが、PH値が低い酸性体質を示します。もちろん病気治療のための薬の影響がないとは言い切れませんが、アルカリ体質を示す人のほとんどが健康だったという結果にも驚かされました。